……という話をたまにするんですが、理解されたことがないので、ちゃんと書きます。
養老孟司も似たことを言っていたように思うのですが、死とは自分の外側にしか存在しないものなんですよ。
死ぬ人を見ることはあっても、死ぬ自分を見ることはできません。
自分の死を確認できる人など一人もいません。
つまり、この世の中に死を経験したことのある人って存在しないんですよ。
臨死であれば、誰もが経験しています。……毎日、布団にもぐるなどして。
ですが、死んだことのある人はいません。
ここまでは誰にでも理解できると思います。
問題は「死んだことのある人はいない」から飛躍して「人は死なない」と言い切ってしまった場合です。
「そんなわけねえだろバカ」という声が今にも聞こえてきそうですが、僕は本気です。
良く良く考えてみてくださいよ。
毎日のように大勢が死んでいます。身近な人が死ぬこともあります。しかし、幸いにもあなたは生きています。
とてつもなく不幸な出来事があって周りの人がバタバタ死んでも、どういうわけかあなたは生き残ります。
理由が分かりますか? 主人公だからですよ。
全ての人は、自分だけが死なない世界の主として存在しています。
そのような世界では、たとえ自殺しても死ねません。
どえらい後遺症を抱えながら生きることになってしまいます。
ここは、あなたが欲する物の全てを、あなたではない誰かが手にする世界ですが、あなたはリタイアできません。
歳を重ね、肉体が衰え、出来ることも減り、喜びよりも苦痛の方が大きくなっても、あなたが死ぬことはありません。
握った砂が指の間から落ちゆくように愛する人や物や記憶が失われても、あなたが死ぬことはありません。
仕舞いには若かりし頃に恐れていたはずの死を希求するようになるかも知れませんが、それでもあなたが死ぬことはありません。
なぜか分かりますか? おそらく、とっくに分かってますよね。
あなたがいる場所は、地獄なんですよ。
……っていう怪談なんだけど、やっぱり伝わらんかこれは。
この話って僕にとっては前提みたいなものなんですよ。
この世は地獄であり、生きることは苦しみであるという前提を持ちながら、なおも生きていかなきゃならないっていうね。
だから僕らは笑うんですよ。
笑えないことも笑うんですよ。