こどもをつくろう。


江戸時代に生まれた日本人の総数は2億7千万人と推定されているそうだよ。そのうち僕らが知ってるのは何人ぐらいだろうね。100人も知っていれば多い方じゃないかな。みんなが知ってる江戸時代の人物の数を仮に平均100人とすると、後世に広く名を残せたのは270万人に1人ということになるね。いずれも、何らかの偉業を成し遂げるか、どえらい事件を起こすか、あるいは、たまたま偉い家系に生まれた人たちばかりで、大抵の人は一庶民として死ぬことになるけれど、その庶民たちも子供を作ることにより後世に爪痕を残してる。少なくとも子孫は自分のことを覚えていてくれる可能性が高いし、いつか子孫が著名になった暁にはNHKの「ファミリーヒストリー」あたりで取り上げて貰えるかも知れない……という、可能性の種を蒔いているわけだね。だから、僕は子作りを「次の世代までは確実に残るし、上手くいけば千年後にも影響を与えうる、強力な表現行為」と見做しているんだ。子作りに至る難易度は人によって異なるとしても、270万分の1という倍率に挑むよりは簡単だと思う。子供を作り、育てきることで、凡庸なアーティストよりも強力な影響力を生み出せる。子作りには、そういうメリットがある。まあ、難易度という観点から言うと「死んだ後のことなんてどうでもいい」だとか「バタフライエフェクト的にはメシ食ってクソして屁をこいて寝るだけでも世界を大きく変えられるはず」だとか「いつか終わってしまう世界の前には総てが無意味だ」みたいなことを言っておく方が、子育てよりずっとラクなんだろうけどね。そのように達観できない人が人生に意味を求めるときには、子作りという選択はアリだと思うよ。僕には子供なんて作れそうにないけど、作れないなりに、それぐらいのことは思う。ときおり知人共から送り付けられてくるガキの画像を見るたびに、どこか羨ましく思ってしまうところもある。だから僕はひとり舌打ちをしながら、「これをネタにシコっていいですか?」とコメントして鬱憤を晴らしているんだよ。同じように、料理の画像が送られてきた場合は「立派なウンコに育ちそうですね」と書くし、交際や結婚の報告をされた場合は「どんなセックスしてるんですか」と訊く。これらは人が嫌がることをしている人に対する相応のリアクションだと思うんだけど、どうも連中は手前の幸せアピールを大正義と信じているフシがあるから、だいたいの場合において僕だけが「頭のおかしい人」という扱いを受けてしまう。なんとも不公平な話だね。

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