僕は元いじめられっ子だ。
成人してからも「いじめられ体質が抜けていない」と言われる。
元いじめられっ子のセンサーは敏感だから、迫ってくる奴を見た時に、そいつが本当にやる奴かどうかは分かる。
しかし、それが分かったからと言って、取れる対策などそんなにはない。
かつて、とある談合の場で、「鼻を折る」と宣言しながら僕に迫ってきた奴がいた。
その時に僕が周囲へ向けて吐いた言葉は「僕は確実に負けるからそいつを止めろ」だった。
誰かが「手を出したらお前は終わりだよ」と告げて、その場は丸く収まったのだが、僕一人で解決できたとは言えない。
僕は暴力というものを「痛めつける暴力」と「壊す暴力」と「殺す暴力」の三つに分類している。
イジメでは「痛めつける暴力」を受けた。「痛めつける暴力」では、死なないし、分かりやすく傷付くこともない。
先ほどの例で僕に迫ってきたのは「壊す暴力」だ。明らかな傷が残るため、行う側には覚悟もしくは激情もしくは精神的な欠陥が要る。
同じリスクを犯すのであれば「殺す暴力」の方がまだ(隠せるものがあるぶん)逃れやすいが、露見した場合の処罰は重い。
相手がどのモードで来るかは対峙すれば分かる。
「殺す暴力」に迫られたことはないが、「壊す暴力」を振るう奴の挙動に「死んでもいい」という開き直りを見たことはある。
「殺す暴力」が放つ気配とは、おそらく、そいつが純化したものなのだろう。
まあ、モードが分かったってどうしようもないんだけどさ。
人は暴力に弱い。そして、多くの人は本当の暴力を知らない。
どんなに警察が優秀だとしても、攫われてどこかの山中に裸で転がされている時に縋れる警察などいない。
自分を攫ったハイエースの中にシャベルを目撃したならば、「後で訴えてやるからな!」といった啖呵を切る気も無くなるだろう。
そんなとき、どうする? 命乞いする? 「何でもするから助けてくれ」と。
大抵の人はそうするんだよね。
正義感やプライドをかなぐり捨てて、何にでも従ってしまうんだ。
僕は少数の暴力に屈する多勢というのを学校で見てきた。
暴力に晒され続けた人が、拒否することさえも諦めて、愛想笑いを浮かべながら、殴られたり犯されたりする様を見てきた。
暴力を知らない人からすればフィクション同様の出来事に思われるかも知れないが、他人事だと思わない方がいい。
遭うも遭わないも運でしかないのだから。
圧倒的な暴力に迫られた時は、どう振る舞うのが正解なのか? 各々に考えてみて欲しい。そして、良い答えが見つかったら教えて欲しい。
僕が答えを持っていないから丸投げで終わる。